2012年08月26日

まごころ 1939日 成瀬巳喜男

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昭和14年の作品ですから、プロパガンダ色がありますが、
それをも逆手にとっています。
冒頭の婦人達のデモ、劇中のバンザイ、
召喚令状、ラストの出征のバンザイ、
あたりにそれを感じますが、
本題は、深くて優しい人間模様を映した映画です。

主人公は小学六年の仲のよい女の子二人、
金持ちの子(父が、高田稔)と、母子家庭の子(母が、入江たか子)です。

高田稔と入江たか子は好き同士だったのですが、
結婚しないという過去がありました。
高田稔は金持ちの家に婿養子に入ります。
その妻は二人の過去を知っていて、とっても、今でも嫉妬しています。
亡くなった入江たか子の夫は、どうしようもない男だったこともキーです。

ふとしたことで、女の子二人は、
それぞれの親の過去を知ります。
当然、自分の親のことですから不安になります。

二人は生まれた経緯を考えます。
暴力の父親だったことを知った少女は、
もしかしたら高田稔が父だったかもしれないと思考します。

また二人の少女は、(金持ち家の)父母の確執を心配し、
(母子家庭の)母と高田稔の今の気持ちを恐々と察しようとします。


何気ないドラマをサスペンスのようにし、惹きこみます。
登場人物の視線とシーンのつなぎのリズムが、台詞以上に心の声を伝えます。
そして、小道具のフランス人形のやりとり、
しかもそのやりとりの発端となったケガが、
ラスト前の少女のあのシーンに活かします。
実に見事な演出です。

また、風景も綺麗に撮れています。
少女二人が遊んだり泣いたりするシーンも綺麗です。

思いやりがあふれるシーンが多いのですが、
母子家庭の祖母が、少女の亡き父をなじる台詞や、
高田稔が、嫉妬でどうしようもなく卑しく落ちた妻に浴びせる言葉は、
(この妻が最初に担任に語る言葉の嫌らしさがここで生きます)
かなり辛辣で、「まごころ」とはかなり離れています。

その落差がサビのように利いていて、
こちらの心に響きます。

この作品も成瀬巳喜男らしいし、
素晴らしい一本でした。


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