2012年08月09日

青べか物語 1962日 川島雄三

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「洲崎パラダイス」では、ダメダメな主人公のカップルが、
街の人々と触れ合います。
「貸間あり」では、なんでもできる主人公が長屋の仲間と触れ合います。
そして、その主人公は川島雄三自身であると察しています。

この映画は、もっと大きい舞台、戦後の浦安(映画内では浦粕)の街中を舞台に、
そこの人々の生き様をとらえます。
そして、主人公の森繁久彌はやはり川島雄三の分身です。
けれど、東京から来た作家で、街の傍観者なので、
「貸間あり」の川島雄三とは違う部分の分身です。

傍観者としての視点で、街中を少し俯瞰しながら、
貧しい庶民を多くのエピソードを交え実に見事に表現しています。
川島雄三の映画となると点数が甘いかもしれませんが、
見事な作品です。

ここの一癖も二癖もある住人は、喜喜として生き生きと暮らしています。
時に爆発するかのような生き様です。
そこには先がないことを察している世紀末的な雰囲気もあります。
それを傍観しています。

これまでの川島映画でもその雰囲気がありましたが、
それが顕著です。
移りゆく時代、
良き浦安がなくなること、人情が希薄になることへの警鐘を超えた怒りを、
笑いに変えて映画に魂として吹き込んでいます。

随所のシーンでそれを匂わせて、ラストのショットで確定させます。

ただしただ憂いているのではありません。
世の中が変わることを否定ではなく、
冷めた視線で映像に収めているのです。
そして、そこにいる庶民(弱者)は一筋縄では行かない弱者ではない、
とエネルギッシュに描く、
川島監督の人に対しての熱い気持ちも伝わって来ます。

人なんてしょせん、卑しくて、自分勝手で、嫌らしくて、愚か、
だからなんだ。
それが当たり前なんだからそこから始めよう、
切ないエピソードもあるけど生きていれば色々あるさ、
この映画を観ればわかるだろ。
と自分を肯定された映画でした。


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