2019年06月03日

13回の新月のある年に 1978西独 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー



性転換した男(女)エルヴィラの苦悩を描きます。1970年代でこのテーマを扱う、そして主人公の心を掘り下げていて先進的だったことを感じます。

エルヴィラは、男として結婚をし、娘もいますが、今は女です。男の恋人もいますし、女の親友もいます。でも心はとても不安定です。
男を買いたくなったり、元の男の恋人を想ったり、まだ離婚していない妻、そして娘に対しても愛情があります。また妻にも娘にも慕われてもします。

でも心は不安定極まりないのです。
自分は何者か?性転換自体が間違いではないか?
でも男として一生を全うする事は出来なかったことも本心です。

街を彷徨い、これまで触れてきた人達を訪ね、自分を確認しようとしますが、迷い、惑いは募るばかりです。
ということで、約束された最期を迎えます。

エルヴィラの人生がどんなだったかが、エルヴィラが訪ねた人との会話から明らかになっていくのですが、もちろん出自の環境や、生育していく時の時代で翻弄されてきたのは間違いがないのですが、エルヴィラは選択したのか、選択しない選択をしたのか、そんなことを考えてしまうことも多く、それは己を振り返ります。
ただ、エルヴィラはとてもデリケートでもあります。

前半、肉牛の解体の精肉工場で、牛が生き物から肉になる過程を坦々と、そして長い時間映すシーンがあります。印象的で強烈です。
死ぬことはどういうことかということもこの映画のテーマでもありますが、死は死だとも言いたげでもあるし、牛と人は違うとも言いたげです。
ただ、死に直面することを避けがちなのを許さないと、造り手が楔を打ちつけてきたようにも思いました。

この映画と「第三世代」は今まで鑑賞してきたファスビンダー作品とは違い、非常に観念的でした。観客には優しくない映画でしたが、それも狙いでしょう。


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13回の新月のある年に 1978西独 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
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