2018年04月05日

スリー・ビルボード 2017英/米 マーティン・マクドナー

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ミステリーかと思いきや、重厚な人間ドラマでした。
主要人物は直情的で短絡、自分の思うがままにしていないと気が済まない奴らなので、ハチャメチャなことが起こりますが、そんな嫌な人物を通しての人間賛歌です。

7ヶ月前に娘を惨殺された母ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、不甲斐ない警察への警鐘を込めて、どでかい看板に警察と署長に対しての抗議の広告を掲載することから物語ははじまります。
この殺人事件を掘り下げるのではなく(事件も展開にもちろん絡みますが)、当事者達を追うドラマです。

主要登場人物がとにかく濃い。ミルドレッドは怖いもの知らずの肝っ玉かあさんで、警察を敵に回しても自己主張を曲げません。
この警察署自体もミルドレッド曰く殺人事件よりも黒人差別に躍起になっていると揶揄されるのですがまさにその通りです。
その署長のウィロビー(ウディ・ハレルソン)も、それらを束ね手綱を引いているのですから相当強かです。また末期がんに冒されていてそれをも世論の味方にし、結局自殺するのですが、それも計算づくプラス自分の心情に従ってのことです(勇気があっても自殺は出来ないかもしれませんが)。
濃い部下ディクソン(サム・ロックウェル)がもう一人のキーパーソンで、とにかく酷い。警察権力を自分の感情処理に利用している、すぐにキレル男です。

この3人が自分の主張を決して曲げないのですから事は収まるどころか、収集がつかなくなっていきます。
そしてそれぞれの思い違いとすれ違いで事件が解決するどころか、怒りの連鎖が起こります。
そんな展開なのですが、ちょっとしたきっかけで(自殺した署長のミルドレッドとディクソンに宛てた手紙)、二人の視点が変わります。
やっていることは相変わらずの短絡で直情的なのですが、ふっと我に帰るそんな雰囲気を醸すようになります。自分の視点だけで観ていたミルドレッドとディクソンがそれだけではなくなるのです。

ラストシークエンスは事件の解決にはならないけれど、少し変ったミルドレッドとディクソンにとってはけじめとなる行為で、避けて通れないことです。
ここに人間の不可思議さと愛らしさが込められていると感じました。

隣に居たらうざくて付き合いたくない連中ですが、人本来の姿のようにも見えました。






追伸
4/5は「清明」です。二十四節気更新しました。
ご興味がある方は、干し芋のタツマのトップページからどうぞ。
干し芋のタツマ
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清明


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