2016年05月28日

さらば冬のかもめ 1973米 ハル・アシュビュー

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ベトナム戦争の苦悩を描いているとしか思えない映画でした。

たった40ドルを募金箱から盗もうとしただけで、海軍を懲戒解雇と8年の服役に処される未成年のメドウズ(ランディ・クエイド)を、護送する先輩海兵バダスキー(ジャック・ニコルソン)とマルホール(オーティス・ヤング)の二人は、メドウズに同情的です。
護送時間5日間にメドウズにせめて楽しい想いで作りをという話です。

ビールをたらふく飲ませたり、母親に合わせようとしたり、最後の夜は童貞のメドウズを男にさせてやります。
でも結局やれることはそれだけ。理不尽な軍には全く逆らえないという構図です。


メドウズには、万引き癖があります。窃盗未遂もその癖がでたのです。そして、言いたいことを言えない性格でもあります。
これはベトナム戦争で病んだ若者の姿です。
それをバダスキーとマルホールが成長させようとします。

例えば、メドウズはチーズバーガーのチーズは溶かしてと注文しますが、溶けてないものが出てきても店員に言えません。それがラスト近くでは、柔らかい目玉焼きを注文して、固いと突き返すことができるようになります。

確かにメドウズはそれなりに、言いたいことが言えるようになったり、どんちゃん騒ぎができるようになったりと、押し殺していた感情を表出できるようになります。そして最後は二人に恩を感じていたため逃げ出すことができなかったことも覆し、逃げようともします。
でも、結局は逃亡もできず刑務所へ。

バダスキーとマルホールも自己満足の域を出ることができないとしか見えません。

3人とも、そして軍も病んだままなのです。

もうひとつ、メドウズを母に合わせるエピソードも印象的でした。
曖昧に会いたがらないメドウズを無視して合わせようとするバダスキーとマルホール、母は居なかったので、家で待とうとすると家の中は、酒ビンが倒れているという情景です。
その後諦めて駅でのメドウズの言葉は「合っても話すことが思い浮かばない」

メドウズは愛が解らない可能性があります。それが万引き癖にもつながっているのかと。(父親も既に他の女と再婚している)静かに壊れているのです。

それを迎えるバダスキーは結構壊れていて、マルホールはまともなのですが、周りに振り回される性格です。

一見呑気なロードムービーですが、苦笑いしかでない、歯車がいつも合っていないそんな雰囲気です。
だからこの映画は、ベトナム戦争が及ぼしたアメリカの苦悩に映りました。


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