2015年08月09日

雪の轍 2014土/仏/独 ヌリ・ビルゲ・ネイジャン

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カッパドキアの景観の中で繰り広げられる、凄まじいまでの会話劇で、
人の本質を掘り下げます。

観光地でホテルを経営する資産家のアイドゥン(ハルク・ビルギナー)には、
若く美しい妻ニハル(メリッサ・スーゼン)がいます。
家には出戻りの妹ネジラ(デメット・アクバック)と従業員達がいます。

ある日アイドゥンが乗ったクルマが投石にあい、窓が割れます。
犯人の少年は、店子イスマイル(ネジャット・イシレル)の息子です。イスマイルは服役帰りで職がなく、生活は弟のハムディ(セルハット・クルッチ)頼りで、家賃を滞納していました。それを容赦しないのがアイドゥンと従業員で、強制退去を迫っていてその恨みから起きた事件でした。

ここでこの映画は不穏を暗示させますが、その予想以上に人の嫌らしさに言及していきます。

アイドゥンは悠々自適ですが、地元の新聞のコラムを担っています。好評のようですが、ネジラからは、批判されます。“上辺だけだ”と。
もちろんそれに反論するアイドゥンで、ネジラに言われて傷つけられた以上にネジラを傷つけないといられません。

ニハルは何故アイドゥンと結婚したのかわからない程で、年の差は親子以上、そして美しい、しかも頭脳明晰です。彼の資産が主目的ではないでしょうけれど、後押しにはなっているはずで、でも一見すると、地元の名士であり、立派な経営者でありしかも慈悲深い、元俳優のアイドゥンに惹かれたのでしょう。
でも夫婦仲は冷え切り、ニハルの今の生き甲斐は慈善事業で、寄付をすること、仲間と一緒に寄付を集めて、どう有効に使うかです。

そのニハルの慈善事業好きが鼻に付くのアイドゥンです。もちろんニハルの多額の寄付は彼の資産が出所ですが、それは別に気にしていません。彼も多額の寄付は毎年やっている様子で、それに金には全く困っていませんし、もうだいぶいい年だからです。
気に入らないのは、ニハルに群がる輩達が詐欺師に見えることと、ニハルが自分の思い通りにならないことです。

自由を赦されるように見えて精神的に縛られていることをニハルは重荷でしかたないから、アイドゥンと上手くいくはずはありません。
そんなアイドゥンをネジラも暇しく感じています、だからアイドゥンと口論になるし、また、ネジラとニハルもそれぞれストレスからか、この二人も激しい口論になります。

この家庭は、それぞれを傷つけあうことが常のような家庭です。しかも3人共に弁が立つから始末が悪いのです。

自分の都合が良い正義だけを振りかざすのがアイドゥンで、
彼の都合が良いとは、自分が自分を賞賛できることと、他人を操作・支配できる快感を得ることです。
ニハルを縛っていないように見えて縛ること、
貧困者を救うようでいて嫌っていること、金持ちも嫌いだし、頭が良い奴も悪い奴もアイドゥンは嫌いで、好きなのは自分だけです。(これについてはニハルに断言されてしまい、たじろぎます)

ただそれはこの物語全ての登場人物が同じです。

自己満足の慈善事業で生き甲斐を求めるニハル、動機は偽善で、天使のような私が好きなのです。

ネジラも別れた原因は誰が見ても夫にあるのですが、自分が夫に尽くしきれば夫はそういう人には成らなかった、私にも非があると周囲に振りまきます。どう見てもネジラはその場でそれができる人間ではありません。
ネジラも、私って思慮深くて大きな心持ちの人間だと認めさせたい女です。

イスマイルも同様です。
罪は他人のせいにします。百歩譲ってそれは正当としても、生活の糧を得ようとしないことは悪です。家族にしわ寄せを押し付けて、でも一番威張っているという男。イスマイルも自分本位です。

終盤にニハルは偽善の最たることをやります。
寄付と称して家が買える程の大金をハムディとイスマイルに提示します。
あまりの高額(この金の出所はアイドゥンで、ニハルとの口論で彼女が得たもの)に戸惑うハムディですが、イスマイルはニハルの偽善を叩き潰すべき行動に出ます。
金を火にくべてしまいます。

泣き崩れるニハルですが、彼女はこと自己満足を得たい時には全く幼稚な思考です。
また、イスマイルが受け取らない心も十分に解ります。その金を受け取ったら人でなしを許すことと、自分が人でなしであることを認めることになるからです。
しかし、イスマイルは既に人でなしなのです。家族のことを想えば、そして、自分のプライドを守るためだけに生きてきたことを羞じていれば、違う行為に至ったでしょう。

事程左様に、皆、自己愛が強い輩ばかりです。


ニハルがイスマイルと合っていた頃、アイドゥンは旧友と旧交を温めていました。
そこで、自分はニハルを支配していた、操作ばかりしようとしていたことに気づき反省します。
しかし、ラストで、でもそんな自分は変わることはないことにも気づきます。

どこまでも人は自分勝手です。
辛辣な物語でした。






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