2014年12月31日

ラブホテル 1985日 相米慎二

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愛されていることを実感したい女と、
大事に想う女を愛する資格がないと決めてしまった男の物語です。

出版会社を経営していた村木は、金が回らずついついヤクザに借金をしてしまいます。
金を返せない村木に対してヤクザは村木の女房を凌辱します。
絶望した村木は自殺を決めます。
女(名美)を買い、道ずれに(無理心中)しようとしますが死にきれませんでした。

二年後、村木はタクシードライバーになっていました。
村木は女房をヤクザから守るために離婚はしていますが、彼女は通い妻として村木に尽くしています。
そんなある日、村木は偶然に名美を見かけます。
名美を待ち伏せしてタクシーに乗せる村木、そして、あの晩のことを名美に話します。
村木にとって名美は天使であること。自殺を思いとどまったのは名美と出会ったからと告白します。

今の名美は、体を売っていた過去を過去の男から脅されていたり、
会社の上司と不倫をしていて(この男がまたダメダメ男で)、未来に絶望感を持っていました。
村木は一見、朴訥で甲斐性なしですが、名美の前に現れた村木は彼女にとっては自分を必要としてくれる男だと感じました。
名美には、それが村木を愛すことと愛されている実感へと繋がります。

村木も名美は愛おしい存在です。
名美が今幸せでない現実を何とかしてやりたいと思います。

二人は二年前にリセットすることを決めます。
これは名美のたっての希望です。名美はこれをきっかけに村木とこれからの人生をやり直すつもりだったけれど、村木はこれを最後に別れるつもりでリセットの儀式に臨みます。

そしてラストになります。
名美が村木のアパートを訪ねると村木はもういません。
帰り際に村木の女房とすれ違います。村木は女房とも別れを決めたのです。


名美は、愛してくれる人を求めていました。その対象が村木でした。
優しい村木はそれに応えようとしましたが、村木は自分では不適格だという自覚がありました。
“女房も守れなかった男”という烙印を自分に押しているのです。
そんな男になお今も健気に尽くす女房がいます。
そしてまた、自分を必要とする女名美が現れました。

村木は、その二人から遠ざかるのが二人のためだと決めたのです。
村木は、二人を(どちらか一方かもしれませんが)愛することが怖かったのではないかと推測します。
また愛する人を守ることができないで女を傷つける怖さと、
結果そんなことしてしまう自分に出会ってしまう怖ろしさに襲われて姿を消したのです。

二人を愛するが故に、二人とはいられないのが村木でした。
また二人の女も村木に頼ることで今から(明るい未来のために努力すること)を曖昧にできる道を選んでいて、村木にはそれも耐えられなかったのです。
女達は、村木に愛されたい気持ちがないわけではないのですが、
それよりも愛される実感の方が欲しいことを村木は気づいていたのでしょう。

とても切ない物語ですが、村木のこの決着は、彼ができる一番の選択だと言って良いでしょう。


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